・富士フィルムから、X100Vの発表があったけど、プロモーション動画の炎上って何があったの?
・この鈴木達朗氏はどういう考えの人なの?
という方の疑問を解消するための記事になります。
■この記事のポイント ✔ 炎上したプロモーション動画 写真家鈴木達朗氏の盗撮めいた撮影シーンが富士フイルムの公式動画に載ったことで炎上 ✔ 写真家、鈴木達朗氏のストリートスナップに対する考え方とは |
炎上したプロモーション動画
富士フィルムより、2017年2月発売のX100F後継機種となる、X100Vが発表されましたが、そのプロモーション動画が炎上しています。
プロモーション動画は何が悪かったのか?
FUJIFILM X100Vのプロモーション映像は何が悪かったのか?
公式動画は落とされていますが、Twitter上の以下から見れます。
https://twitter.com/i/status/1224920297385496576写真家の鈴木達朗氏が街行く人々に対し、突然カメラを向け写真に収めている様子を通して、氏がスナップに対して語るという構成です。
ただ、氏が撮影するさまが盗撮のような手法で、本人が嫌がっているにもかかわらず、許可なく撮影をおこなっているのが、視聴者にもよくわかるようになっているのが問題です。
《閑話休題》
今回の撮影手法は「盗撮」か?
氏は隠れて撮影しているわけではないので、「搭載」という言葉は正確にはあてはまりません。氏は堂々と、嫌がる通行人の撮影をしています。
「盗撮」ではないものの「強引な撮影」を行うことの迷惑、ということで、改めてストリートスナップの撮り方に一般からの非難が集まりました。
Twitterでもこういう撮り方をどういうのか、「強撮」などという言葉も出てきていました。
また、途中で警察に職務質問を受けている場面もあります。
撮影者のモラルが問われると同時に、富士フィルムのオフィシャルプロモーション動画ということから、この企画を通した富士フィルムのメーカーの姿勢も問われる騒動に発展しています。
なお、現在公式の動画はYoutubeから削除されているため、以下で見ることが可能です。
富士フィルム側の対応は?
リリース直後からネットで炎上した一連の騒動に気づいたフジフィルム側は当日夜、公式サイト上にて、
「プロモーション動画の配信停止について」と題したお知らせ文を発表しました。
以下が公式サイトに掲載された本文です。
「FUJIFILM X100V」プロモーションサイトにおいて、視聴者の皆さまに不快感を与える動画が掲載されましたことを深くお詫び申し上げます。
本日、当該プロモーション動画の配信を停止いたしました。
頂戴いたしました、多くのご意見・ご指摘を真摯に受け止め、今後このようなことがなきよう努めてまいります。引き続き、写真の素晴らしさを多くの皆さまに共感をもって受け止めていただけるよう取り組んでまいります。
富士フイルム公式サイト
ユーザーの口コミは?
Twitterや掲示板で、いろんな意見が吹き荒れていますが、大きく分けて、以下の4種に大別できます。
▼ ユーザーの口コミの種類
・写真家否定派
・写真家擁護派
・富士フイルム否定派
・中立派
写真家否定派
まず、主流を占める否定派の方々の口コミです。
普通に歩いてていきなり撮られるのなんて嫌に決まってんだろ。芸術だのアートだの知るか。人様を勝手に撮るんじゃねえ。
動画見たけど、通行人にことごとく避けられているw
スナップじゃなくて普通に盗撮だと皆が思うでしょう。
通り魔、という表現も・・・
通り魔かよ。
通り魔って、誰でも良かったと言いながら、狙うのは決まって子供やひ弱な女性だからね。
業界自体への批判も・・・
業界自体が無許可で街中で人を撮影することに鈍感になっているのだと感じた。
これだとスナップのボーダーラインがどんどん酷くなっていく気がします 。
写真家擁護派
撮影手法としては、従来からある伝統的なものだ、という主張です。
ストリートスナップが気持ち悪いだの盗撮だの通り魔だのと正義を振りかざす行為が魔女狩りの様で怖いな。
あの様な写真を撮る手法は昔からあっただろうしカメラマンはリスクを承知でやっているはず。
富士フイルム否定派
一方で、写真家というより、メーカー側の責任を挙げる声も
これは気持ち悪さしか感じないな…
公式PVとして公開した富士フイルムは何も感じなかったのか?
写真家からの信頼をなくすのでは?という口コミも。
むしろ、こんな簡単に手のひらを返され、フジフィルムが鈴木氏を擁護しない事に対して他のカメラマンは憤り、フジフィルムから離れようとしています。
写真家さん云々よりフジフィルムという会社に責任があるのでは。
撮られた写真家さんのためにも、そしてストリートスナップが大好きな全ての人たちのためにも、ストリートスナップに悪いイメージがつかないような対応を期待
昨今SNSで表現にまつわる炎上が多くなってきました。表現の不自由展に関してのコメントも。
表現の不自由展にしても「アレを炎上すると分かってやって表現の自由をワザト委縮させた奴が悪い」という主張なので、今度の件も全てフジフィルムが悪い。
中立派
最後に中立派です。
この撮影手法は昔からある一般的なものだが、時代の変化に合わせて、今では受け入れられないものになったので今後は注意必要、という主張です。
私もこの意見に同感です。
森山大道のような昭和のストリートフォトに馴染んだ世代が見たらちょっと攻めたふつうのストリートフォトグラファーにしか見えないが、令和の時代にはギャップが大き過ぎた。
煙草を路上で吸うのが非常識になったと同様、ストリートフォトは今の時代では既に悪。
ブレッソンや木村伊兵衛あたりのライカ使いによるキャンディッドフォトの流儀をオマージュしました…ってクールっぽく言いたいんだろうけど、時代が全然違うとこが抜け落ちてて壮絶に残念
写真家、鈴木達朗氏とは
1.写真家としての鈴木達朗氏の略歴
鈴木達朗(すずきたつお)写真家
1965年生まれ。東京都出身。
2008年より撮影活動開始。学生時代はパンクバンドの活動を精力的に行っていたが、就職を機に活動は終息。ある日カメラを手にしたことから再び表現活動に目覚める。
2016年 Steidl Book Award Japan 受賞。
来春Steidl社より写真集刊行予定。
2017年 米国屋外写真フェスティバル The Fence 2017 にて展示巡回中。
上記には記載されていませんが、東京カメラ部10選にも選ばれていますね。
2.鈴木達朗氏の作品
インスタグラムでは、以下のような、白黒のストリートスナップ写真が多く挙げられています。
少し毛色は異なりますが、以下のような攻めた(!?)ストリートスナップも
トイレでの盗撮を堂々とUPする鈴木達朗なる写真家を知った。
— 良介 (@ryosuke847) February 6, 2020
氏のTwitterにUPされていた当該写真を見たら、なんとただの盗撮ではなく他人の用便中に鏡越しの自撮というゲイ術的な写真だった。 pic.twitter.com/ZY9htWYhbi
何事も行き過ぎはダメ、ということをあらためて思い起こさせてくれる作品です。。
3.鈴木氏のストリートスナップの考え方
東京カメラ部写真展2016でのトークショーで鈴木氏が登壇しており、スナップ写真について語っている記事がありました。
以下の写真の一番左が鈴木氏ですね。
東京カメラ部の塚崎氏とアサヒカメラの佐々木氏中心に、土門拳の写真集『筑豊のこどもたち』には、裸同然の子供もおり、今こんなことをやると大変なことになるというようなトークが繰り広げられます。
そして、鈴木氏の発言です。
鈴木「主にストリート写真を中心に撮っていて、基本的に事前承諾なしで撮っているという状況です。そんな中で、展示させていただいたり、賞をいただいたりしております。幸いなことに今までクレームなどはございません。しかし今後掲載された時に余談は許さないという状況です」
東京カメラ部2016写真展トークショー
そして、以下の自身の作品について、コメントをしています。
鈴木「これは渋谷の映画館の受付の女性を撮った写真です。イヤホンをつけられていたんですが、『写真撮ってもいいですか』って声をかけたらしばらくこちらを見つめた後、また元のように、顔を伏せて、そのまま撮っても彼女は何も言わなかったので、いいのかなと思っていたんですが」
東京カメラ部2016写真展トークショー
塚崎「撮られたことを彼女は認識しているってことですね」
声かけはしていたものの、明確に相手の承諾は得ないまま、撮影に臨んでいる、ということがわかります。
ちなみに、この映画館受付女性の作品は、鈴木達朗写真展「軋轢 / 東京ストリート」での代表カットのようになっているようです。
撮影されてしまった女性もまさかここまで大きく取り上げられることになるとは、思いもよらないことでしょう。。
さらにトークは続きます。
塚崎「撮っていてトラブルになることはありますか?」
東京カメラ部2016写真展トークショー
鈴木「僕はすごく近い距離感で、カメラを構えながら撮るスタンスなんですよね。『今撮ったでしょ?』と言われることは多々ありますね。そういう場合は、素直に撮った写真を見せます。クレームを付けてくる人はこっちの話を聞いてくれないんです。こじれて警察沙汰になって、実際に警察でお話ししたこともありますが、そのような場合は消しちゃいますね。これまでクレームを受けた写真はどれも決定的瞬間の写真ではなかったというのも大きな要因です。今後そうした写真が撮れた時にクレームを受けた際には、それは多分最後までこちらの趣旨を伝える努力を行う所存です」
本人は完全に開き直って撮影しているのがわかります。
塚崎「鈴木さんは警察に囲まれた経験がおありですよね?」
東京カメラ部2016写真展トークショー
鈴木「何度かあります。警察官の人がデータを消すように言ってくるんですよね。本当は消さなくてもいいんですけども、長引くからいつも消しています。でも、一番怖いのは警察とか法律とかではなくて、被写体に刺されたり、殴られたりすることですよね。だから覚悟して撮っています。被写体に囲まれることもありますが、そういう時は自分から警察に駆け込みますね。逆に守ってもらえるので」
警察に囲まれたことのある経験も、得意げに語られています。
まとめ
カメラの新商品発表関連で、ここまで炎上することは非常に稀です。
改めて、今回の件を振り返ってみると、
・SNSなどで(スマホ含めて)写真撮影が身近になってきていること
・各個人の肖像権への意識の高まり
により、今回のようなことは、誰にでも起こりえる身近なことともいえるとおもいます。
撮影する側は被写体となってくれる方への配慮を忘れずに、向き合うことが大事とおもいます。
一方で、
実際の、生の空気感をスナップとして切りとりたい、という方は、どこまでがNGでどこまでなら許されるのか、一定の知識は得ておく必要があるとおもいます。
ストリートスナップの撮り方、ルールについて、上記トークショーでも出ていたアサヒカメラの以下特集号で詳細に触れられているので、ご興味ある方は、ぜひ一読されることをおすすめします。
では。